あたらしい時代づくりに取り組むひとと企業──積水ハウス編
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2015年3月13日

あたらしい時代づくりに取り組むひとと企業──積水ハウス編

あたらしい時代づくりに取り組むひとと企業──積水ハウス編

快適を追う最新の住宅は、次の社会の基盤を作る(1)

原子力発電の限界が見えたいま、次世代のエネルギーをどうするか。そしてどうつきあっていくか。これから私たちが考えるべき課題は多い。悩ましい問題だ。しかし見方を少しシフトすれば、まったくあたらしい時代へのターニングポイントがいま、といえる。そこでキャスティングボートを握っているのは、私たちなのだ。

文=小川フミオ写真=吉澤健太(人物)

次世代の社会基盤設計「スマート・ネットワークプロジェクト」

OPENERSでたびたび論議されている次世代自動車をふくめて、新エネルギーを前提とした住宅、いわゆるスマートハウスも、現在、大きなステッピングボードを踏み切ろうかという状況といえる。じつは原発事故以前から、住宅会社、通信会社、自動車会社など異業種が集まり、次世代の社会基盤をどう作っていくかをさぐるプロジェクトは進行していた。それが「スマート・ネットワークプロジェクト」だ。

「スマート・エネルギーネットワーク」とは、簡単にいうと、家と電力供給システムやクルマがITを使い協調して、快適でかつ効率的なエネルギー供給をおこなうシステム。


観環居の家族室には、陽射しの熱を蓄える蓄熱床を使用することで、主に夜間の暖房負荷を抑えることができる。

「通信を利用した、ひとと家とクルマがつながる暮らし」(広報資料)のためのコンセプトだ。各家庭に小さな携帯電話基地局(フェムト一体型ホームともいう)を置くのが基本。そこに情報を集約する。たとえば、家庭の照明や窓の開閉などのセンサー、温湿度、消費電力という情報を常時集約する。さらに、このプロジェクトは(戸建て住宅が基本なので)、各家庭が太陽光発電システムを備え、EVを使うという前提。そこで太陽光発電量や、EVの蓄電量もつねにモニタリングする。

家の基地局は家庭とEVの情報を収集。くわえて、地域と情報をやりとりするのも、今回のプロジェクトのもうひとつ重要なポイントだ。構成としては、地域の情報を集約するサービス提供サーバーと常時つながる。地域の情報としては、EV充電スタンドのネットワーク化、車両位置や電池残量などの情報をもとにしたカーシェアリング、地域のEVの使用状況をベースにした充電インフラ充実の判断基準などがあげられる。

つまり家庭と地域がつながり、さらに車両位置や充電状況をふくめてカーシェアリングがより本格的に運行できるようになる。次世代の新エネルギーは効率化という観点から、家庭と地域がより密接にむすびつくものであったほうがいい──。それがいま、各社が考えていることといえる。

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快適を追う最新の住宅は、次の社会の基盤を作る(2)

気兼ねなく快適な生活を送る、そのためのインフラ構築

そこで、「スマート・ネットワークプロジェクト」に住宅の分野で参画した、積水ハウス株式会社にインタビューをした。従来の発電インフラとは軸足をずらしたあたらしいエネルギーの利用と効率よい電気消費という「ハードウェアとしてのあたらしい住宅」とともに、さきに書いたように「ネットワーク・テクノロジー」を組み入れる。それで、より環境適合性の高い、低炭素化社会に向けた暮らしを提案しているのが、たいへん興味を惹かれる。答えてくれたのは、積水ハウス株式会社の石田建一環境推進部長。温暖化防止研究所所長でもあり、工学博士の肩書きももつ。

──住宅メーカーとして、これからの住宅のありかたをどう考えていますか。


積水ハウス株式会社 石田建一環境推進部長

端的にいうと、住むかたが快適な生活を送ることがもっとも大事です。暑いと思ったら、気兼ねなくエアコンを使う。しかし、環境に負荷をかけないそのためのインフラをどう作っていくかが、私たちの課題です。住宅を買おうというお客さまで“不快で良いから、より省エネの家を”と条件を出される方はいらっしゃいません。みなさま“より快適な家が欲しい”とおっしゃいます。一般論でいうと人間はつねにより快適な生活を目指して来ました。それと現在急務となっている低炭素化社会へ向けた、クリーンで効率のよいエネルギーとをどう組み合わせるかが、住宅メーカーとして解決すべき課題だととらえています。

──具体的にはどういう生活提案を?

1軒の住宅に多くの人数で住むほうが電力の消費は抑えられます。たとえばおなじ家に5人で住むほうが、ふたりで暮らすより、効率は約1.5倍よくなります。生活スタイルを変えるのもひとつの方法です。でもこれまでの生活スタイルの維持を望む方が多いので、そこで発電と充電のシステムを兼ね備え快適に、かつ環境に優しい住まいを作ろうというのが、いま私たちが考えていることです。たとえば、太陽光や燃料電池など、自家発電システムを住宅に採り入れる。電気は遠くで作ると、発電時の熱は捨てられ送電によっても失われてしまいますから、効率の点からも作るところと使うところが近いのがベストです。


太陽光による発電量、EVの充電状況、消費電力などをモニタリングすることができる。


室内外にはセンサーを設置。エネルギー情報の蓄積・管理をクラウド、ホームICTで検証し、無駄なエネルギー消費を防ぐ。

──電力の効率よい使い方とはなんでしょう。

昼間は個人住宅で余剰発電が出ることが多いので、その電力をより電力量の多いオフィスなどに供給する。それが効率のよい電力の使い方です。そのためのシステムがスマートグリッドです。また昼間の発電の一部は電池にたくわえて、夜間の消費に充てることも可能です。

米国ではメガソーラーという大型の太陽光発電による電力を分配していますが、日本のとくに都市部では住宅のような分散型発電が主ですから、発電の状況をモニタリングしながら配電をおこなうシステムが必要になるでしょう。それによって電力インフラが整うことになります。スマートグリッドで可能になる小規模分散型社会ですね。いまから10年後ぐらいにはだいぶ具体的なかたちをとりはじめるのではないでしょうか。

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快適を追う最新の住宅は、次の社会の基盤を作る(3)

発電機としての役割を果たす自動車

──通信機能つき電力量計であるスマートメーターが話題になっていますが、こういうシステムがひとつに統合されて、高効率のエネルギーインフラを作っていくことになりますか?

スマートメーターはスマートグリッドを進めるために重要なアイテムですが、メーターを交換する必要があるので、全てを交換するには10年ぐらいかかります。たしかに電力消費量を測定してそれを集約し、データ化するために役立ちます。でも、ある瞬間、たとえば猛暑の14時にどこで電力が不足していて、どこで余剰電力が発生しているか、それを把握して適切に電力を分配するシステムがもっとも必要になります。

私たちは、住宅の屋根に違和感なく設置できる屋根と一体化した瓦(かわら)タイプのソーラーパネルを販売しています。国の補助金が出て、10年で初期費用が回収できる販売価格にしています。このため現在は約7割の当社の新築住宅太陽光発電を設置しています。しかし、太陽光発電の欠点は、日が沈むと発電しなくなります。家庭内の電力消費は夕方から夜にかけて一番多いので、この時発電できません。(発電機能を備えた)燃料電池は、夜でも発電できますから、太陽光発電と燃料電池を組み合わせると家庭で使う電気のほとんどを自家発電でまかなえます。このような住宅は、昨年すでに当社では2000棟建築されました。快適に暮らしながら電気をほとんど買わないで済む家はもう普及段階なんです。



──電気自動車(EV)と住宅との親和性は?

昼間余った電気を蓄えて夜使うことができれば、電力会社から電気を買う量を減らすことができます。しかし、住宅用の蓄電池は高価なため、EVのもっている蓄電池を利用できればコストがかかりません。それを管理するのが家庭のコンピュータで、そことつながるセンターのサーバーです。それが積水ハウスが提唱するネットワーク・テクノロジーです。もうひとつ、今後の課題としては、各自動車メーカーが充電用プラグの規格を標準化してくださることでしょう。

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快適を追う最新の住宅は、次の社会の基盤を作る(4)

電力供給システムをベースとするあたらしいコミュニティ

このインタビューから見えてくるのは、いま私たちに必要なのは、あたらしいエネルギーインフラを支えるシステムの構築だ。個人単位で太陽光発電システムを備え、EVに乗るのも意味あることだが、並行して住宅で発電した電気を融通しあえる社会基盤づくりが求められる。送電線を個人間の送電のために使えるようにすべきだという意見が出てきているのはその一例だろう。

さらに、発送電のネットワーク化のために、スマートグリッドの確立も必要となる。でもスマートメーターの設置をとっても、現時点はそのための膨大な費用を誰が負担するのか、決定はなされていない。そもそもEVとおなじで仕様や規格の統一すら進んでいない。今回の原発事故で見えてきたのは、エネルギー供給は一者が負担していては危機管理上の問題があるということだ。自分が使う電力について、一部は電力会社から買うが、一部は自家発電する。それをベストミックスと呼ぶ。

2011年5月に開催された主要8カ国(G8)首脳会議に先立つOEC(経済協力開発機構)での演説で菅直人首相は、発電量全体に占める太陽光、風力など自然エネルギーの比率を2020年代のできるだけ早い時期に20パーセントとする政府の意志を発表した。実現すればたいへん望ましいことだ。実現可能性をとりざたするのもある意味大事だが、オルタナティブなエネルギーを求めていくという、基本的な考えかたに賛同できるなら、家庭での発電と個人間の送電(電力の売買でもある)を積極的に応援していきたい。

欧米では自分とおなじ考えを政策として立案し、遂行してくれる代表者としての役割を政治家に期待することもある。有権者の権利を正当に使うわけだ。日本でも、今後そのような政策を掲げる立候補者が現れるかもしれないが、まずは自分たちの意識のもちようを、きちんと確立しようではないか。今回取材に応じてくれた積水ハウス株式会社の石田建一環境推進部長がいいことを言っていた。

「やろうと思えばできる。思わなければ永久にできない」

結びの言葉として、これ以上適当なものはないかもしれない。

石田建一|KENICHI Ishida
1985年 工学院大学博士課程工学研究科建築専攻修了1985年積水ハウス(株) 東京設計部入社、1999年環境宣言作成、2001年(財)建築環境・省エネルギー機構環境・省エネルギー住宅賞国土交通大臣賞を受賞、2002年ICT推進部長、2006年 温暖化防止研究所長、現職に至る。2008年 燃料電池と太陽電池を組み合わせて生活時のCO2を差し引きゼロにするCO2オフ住宅を開発、2008年洞爺湖G8サミットゼロエミッションハウスの建築

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