上出長右衛門窯×丸若屋対談

上出長右衛門窯×丸若屋対談

DESIGN FEATURES

上出長右衛門窯×丸若屋対談

伝統工芸の継続を担う、現代の継承者の感性

130年続く九谷焼の窯元、その五代目跡取りである上出惠悟氏。そして伝統工芸をはじめ日本のものつくりの「今」と「これから」をプロデュースする丸若裕俊氏。彼らはまったく異なる環境で育ちながら、日本の伝統工芸に携わる同じ30代のクリエイターとして共鳴している。昨年のデザインウィークの目玉、ハイメ・アジョン氏とのコラボレーション作品を実現させた、日本の伝統工芸を現代に活かすふたりだ。

文=小林由佳写真=JAMANDFIX

石川県の代表的な伝統工芸である九谷焼、その窯元のひとつである「上出長右衛門窯」の上出惠悟氏は、自身が継承する九谷焼を変化自在に昇華させた多岐にわたる活動で、高い評価を得ている。そのプロジェクトをプロデュースしてきたのが、工芸スタイリストとして伝統産業の作り手と使い手をつなぐ、「丸若屋」の丸若裕俊氏。長い歴史のなかで培われてきた、巧みな技術と美意識が礎となる日本の伝統工芸。これを未来に継承するうえで大切なのは、「つねに時代の先端であること」だと、ふたりはいう。

上出 石川県は冬の寒さが厳しい土地柄のせいか、春仕度がじつに華やかです。とくに九谷焼には、待ち望む春への期待を、色柄の鮮やかさで表したものが多くあります。赤絵の器などによく描かれている「魁(=先駆け)」という言葉があるんですが、「魁」は、この春仕度のように、ひと足早く旬を捉えようとする日本人ならではの感覚だと思います。日本の工芸品には、伝統を守ると同時に、誰も作らなかったあたらしいものを「先駆け」て作ろうとする精神が、いつの時代にも変わらずあると思うんです。

写真左/把手付徳利 赤絵5,775円/把手付盃 赤絵3,475円 、写真右/小付 赤絵魁文 5250円。購入先/http://www.choemon.com

丸若 たしかに、何百年も技術が受け継がれている伝統工芸は、それだけで充分に魅力的です。ただ、伝統工芸の扱われ方が、今と昔とではちがう気がする。昔、活気あるころの職人さんたちは、自分たちがものをつくることに対して、今よりももっとアグレッシブだったんじゃないでしょうか……僕は、その活気があったころの空気感を感じてみたい。今は伝統を維持するほうが優先されているような気がします。伝統が重んじられるだけに、工芸品の多くが趣味的に捉えられがちですが、そもそも日常的なものからはじまったはずですから、もっと自然に取り入れられるべき。上出さんの姿勢にも、それを感じています。

上出惠悟|KAMIDE Keigo
1981年生まれ。明治12年創業の九谷焼窯元「上出長右衛門窯」五代目跡取り。東京藝術大学在学中に九谷焼の作品で現代美術界から高く評価され、以後、長右衛門窯のディレクターとしてさまざまな企画や作品を発表するなど注目を集める。

上出長右衛門窯
http://www.choemon.com/

KAMIDE Keigo|上出惠悟

上出 そうなんです。生活用品であった伝統工芸が趣味的なものに捉えられるようになり、さらにモノ自体が売れなくなった今の時代は、職人にとって厳しい現実。危機感をすごく感じる。そういった意味で、歴史あるものを一度整理して、改めてスタートを切ることが必要だと思い、3年前から窯元の新規事業として伝統を今に活かす活動をつづけています。そんななかで、世界的に著名なデザイナーと九谷焼が一緒にものを作ることができた機会は、自分にとって非常に有意義でした。まさに「魁」という言葉に出会ってしまったような気持ちです。

MARUWAKA Hirotoshi|丸若裕俊

丸若裕俊|MARUWAKA Hirotoshi
1979年生まれ。日本各地の職人や企業と、現代に合う物づくりをおこなうよろずや集団の店主をつとめる。「日本の物づくりは何処に向かうのか」「ひとが望むモノは何か」という疑念をものづくりという応え方で提案している。

丸若屋
http://maru-waka.com/

丸若 「上出長右衛門窯」という歴史ある窯元の作品ですから、上出さんとハイメ氏のコラボが動きはじめたときに、「日本の優れた伝統工芸と有名デザイナーのコラボ自体を強くアピールをすべき」と、周囲の方から何度か言われました。でも僕がうれしかったのは、上出長右衛門窯とハイメ氏がお互いの感性と技術を尊重し合い、すばらしい調和から120パーセントのものが生まれたこと。結果的に高く評価されたのであって、“異色コラボ”で注目を集めようとは思っていなかった。僕は、両者の最初のインスパイアをそのまま保つ“空調”みたいな役割を楽しませてもらいました(笑)

2010年のデザインウィークで話題となった、ハイメ・アジョン氏と上出長右衛門窯のコラボ作品。丸若屋がプロデュース。写真左/商品名:醤油さし 鳥形 花火 1万8900円。写真右/上左・小鉢 目型 線文 朱巻 1万500円、上中・向付 鼻型 花火 1万3650円、上右・小鉢 目型 花火9450円、下・長皿 口型 線 つなぎ1万2450円。http://maru-waka.com photo by Koichiro Kutsuna

上出 僕も、創業何年ということが自信につながるのではなく、これからも有名デザイナーと組もうと思っているわけではありません。たまたま縁あってハイメ氏との出会いがあっただけで、これを大切にしていきたいとは思うのみ。それよりも、人びとに手にとってもらいつづけるためには、人間の手でちゃんと作ること、それをずっとつづけていくことがきっと大切なんです。

“古き良きもの”に留めないために、「伝統」の捉えかたをあらためる

丸若 そうですよね。やきものにかんして言えば、中国や韓国でもきちんとしたものを作っているひとはたくさんいるわけですから、“日本の伝統工芸はスゴイんだ”っていうところにしがみつくのはちがいますよね。ただ、日本の伝統工芸の根底にあるソフトウエアは、独特だと思います。精神性や考え方が自然の摂理と合っている。そして真面目にやっているからこそ生まれるユーモア。笑わせてやるぞというより、真剣にやってるからおもしろい……そこが日本独自のソフトウエアだと僕は感じています。

上出 海外でやきものを作り、僕たちとおなじようなアクションを起こしているひとたちを見ていると、見せ方のうまさに感心すると同時に、なんで日本人はああいう見せ方ができないのかって思いますよね。その理由のひとつに、頑固に伝統を守りつづけることに執着しちゃったんじゃないかなって……だから、もっと柔軟にならないといけないと実感するんです。日本人って、そもそも洒落っ気があるし、「魁」のように未来を予感しそれを楽しむセンスもある。でも近年は伝統を守りおなじものを作りつづけることに固執して、あたらしさが感じられなくなっている。僕はそういう意味で、もう一度「魁」という感覚を伝統工芸に呼びもどしたいと思っているんです。自分もあらためてそれを感じていきたい。


PUMA 特注弁当箱 曲げわっぱ。2009年にプーマジャパンが発足させた「ものづくりプロジェクト」の一環として発表された「Bento-Box」シリーズ。そのなかで天然秋田杉を使用した曲げわっぱを丸若屋がプロデュースした。 Photo by HONMA Hiroshi

丸若 デザインは風俗から生まれるものだから、自分たちがやりたいものがきちんと見つからないと、発信したものも時間の経過だけで消化されてしまう。だから伝統には上出さんの考え方のように直感的なものが必要で、そして、それは絶えず時代の先進であるべきだと思います。だって、2番、3番だったらつづかないじゃないですか。僕も、「伝統」を「保全すべき歴史」だとは捉えていません。九谷焼のような伝統工芸を買うときも、個々人が瞬間的な直感で選ぶべきだと思っています。買ってみたら後からのプレゼントで130年の歴史がついてた、くらいの感じでいいと思うんです。洋服だって、その歴史を知ってから買うひとはいないじゃないですか(笑)。「なんでコレが好きなの?」と聞かれても、好きだから好きなんで、あまり細かく説明したら、夢もなくなってしまいますよね。