INTERVIEW|フォーシーズンズ丸の内 東京、ダイニングを初のリニューアル
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2015年6月12日

INTERVIEW|フォーシーズンズ丸の内 東京、ダイニングを初のリニューアル

INTERVIEW|フォーシーズンズ丸の内 東京、ダイニングを初のリニューアル

建築家アンドレ・フーに訊く

フォーシーズンズホテル丸の内 東京のあたらしい魅力(1)

フォーシーズンズホテル丸の内 東京に今年4月に誕生した、あらたなホテルダイニング「MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)」。そのデザインを手がけたのは新進気鋭の建築家、アンドレ・フー氏だ。開業以来の大改装となった今回、氏はどのようなビジョンをもって設計を手がけたのか、インタビューを通してその魅力に迫った。

Text TODA KotaroPhotographs by ABE Masaya

バーカウンターを中心にフロアを再設計

――あなたはハリウッド女優ミッシェル・ヨーの香港の自宅も手がけられたし、シンガポールのフラートン・ベイ・ホテル、そしてロンドンのザ・シャードの52階にあるゴング・バーなど、業界でも知れ渡ったお仕事をされていますが、最初に手がけられた作品は?

アンドレ・フー(以下アンドレ) 10年前のことですが、オピアという、香港のワンチャイにあったレストランが初仕事でした。大人気店でしたが、もう存在しません。香港は店の入れ代わりが激しい街です。私をいまの世界的な立場まで押し上げてくれた最初のプロジェクトは、香港のザ・アッパーハウス・ホテルのホテルプロジェクトです。ここは今年のトラベラーズ・チョイスアワードに選ばれましたし、ホテル内のレストラン「カフェ・グレイ・デラックス」も大人気です。

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

今年4月にあたらしく生まれ変わったフォーシーズンズ丸の内 東京のバーカウンター

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デザインを手がけた新進気鋭の建築家、アンドレ・フー氏

――今回のこのお仕事でもっとも難しかった点はどこですか?

アンドレ フォーシーズンズからお話を頂いたのは一年半前の事です。難題は部屋の形そのものでした。細長い極端な長方形ゆえに、訪れる人びとにばらばらで孤立した印象を与えていました。ですから、一体感や全体性、そして親近感を持って頂く仕掛けが必要でした。ちょっと歩きながらご説明しましょう。私は、こうして現場でインタビューされるのが好きです。言葉を尽くしても実際に見て頂かないと伝わらないものがあります。

以前のレストランでは入り口が目立たず、レセプションも隅に小さく設けられただけでした。今回は、店内のど真ん中にレセプションを設け、一歩踏み込むと真正面がバーカウンターという導線に変えました。今まで壁側を向いていたバーは位置を変更し、窓に向かってあたらしく作りました。飲み物を嫌いな人はいませんから、ここで人びとは一気にグッとこの場所にひき寄せられます。このバーが中心になることで、全てがそれぞれの機能と役割に落ち着いていきました。問題のほとんどは解決したのです。

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

ホテルダイニング「MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)」のエントランス

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

入口右手に広がるバーラウンジエリア。その先には東京駅のプラットフォームを望む

アンドレ レセプションとバーラウンジエリア「ザ・リビングルーム」を区切るスクリーンの模様は、東京駅丸の内駅舎のドーム天井をモチーフにしています。このスクリーンは店内9カ所にあり、シーンを区切るようなイメージで配置されています。バーを正面に、右手奥には東京駅が見え、ラウンジは石庭を隠喩として高低差をつけ長いテーブルも配置しました。夫婦鶴にインスパイアされたヤスメン・フセインのブロンズ彫刻があって、壁のインスタレーションはセラミックデザイナーのロク・ミン・フンが日本の瓦や花びらをイメージして作っています。

「ザ・ガストロノミック・ギャラリー」と名付けたブッフェエリアの壁面には100パーセント シルクの巨大なタペストリーが飾られ、その更に奥が「ザ・ソーシャルサロン」と銘打ったメインダイニングルームとして機能します。このメインダイニングのインテリア照明はフランス人デザイナーのエルヴェ・ヴァン・デル・ストラッテンによるオリジナルです。それぞれの役割を持ったスペースが見通せることで、広い居間にいるような親近感と全体的な一体感を感じてもらうのが狙いです。

Page2. 人びとの気分や態度までを変化させるインテリアの魅力

INTERVIEW|フォーシーズンズ丸の内 東京、ダイニングを初のリニューアル

建築家アンドレ・フーに訊く

フォーシーズンズホテル丸の内 東京のあたらしい魅力(2)

人びとの気分や態度までを変化させるインテリアの魅力

――今回はどういうテーマでデザインを?

アンドレ 最近の私の仕事は、癒される贅沢さ、と説明することが多いです。リラックスさせるラグジュアリーです。そして、今回は特に、インティマシー(親近感)とホリスティック(全体性)もキーワードですね。

――あなたの英語は生粋のクイーンズ・イングリッシュですが、お住まいは香港ですね。

アンドレ 生まれは香港です。14歳で教育的な見地から英国の寄宿制の学校に入り、ケンブリッジ大学で建築を学んでからデザインオフィスAFSOを立ち上げました。14年間の英国生活を終えて、10年前に香港に移り住みました。

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

フレンチのコース料理が楽しめるエレガントなメインダイニング

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

四季折々の旬の食材を使い、五感で感じさせる上質な食の空間を演出する

――建築家とお呼びすればいいのでしょうか?

アンドレ ケンブリッジで学んだのは建築ですが、私の仕事の主流は徐々にインテリアデザインへと傾いていきました。というのも、私はホスピタリティーを提供すること、人びとにある種の経験を提供することが好きなのです。例えば今回のようなプロジェクトは、訪れる人に、ある感触や感覚を、花や音楽も通じて経験して頂くことになります。親密で包括的な経験を受け止めて頂く場所を作り出す事が醍醐味なのです。

例えば、アジアでは、ジャカルタや香港もおなじですが、それぞれの高層ビルにレストランが何軒も入っていて、まあ、日本もまさにそうですが、小さなビルに10軒くらいのレストランが混在する。にもかかわらず、インテリアのちがいである階はバーにも成りうるし、レストランにも成る。イタリアンだとかメキシカンだとか中華だとか、そこに来る人びとの気分や態度までインテリアが変化させてしまうということが面白いのです。今回の長方形のスペースでは、親密かつ包括的に、贅沢な癒しの空間を提供出来たと思います。

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

料理を手がけるのは、ヘッドシェフ浅野裕之氏と北海道のミシュラン三ツ星レストラン「モリエール」のオーナーシェフ中道博氏のふたり

MOTIF RESTAURANT & BAR(モティーフ レストラン アンド バー)

フロア中央にはデザートやオードブルなど時間帯によってさまざまなアイテムを提供するライブキッチンテーブルをレイアウト

――そういう感覚は、小さい頃ご両親に連れて行かれた香港のレストランなどからインスピレーションを得たのでしょうか?

アンドレ いいえ。14歳以降に住んだ英国や両親に連れて行ってもらった欧州大陸の国々が良い経験となりました。実際に目にした物事、北欧のインテリアや南欧のライフスタイル、大学で学んだ現代美術、美術史、建築、ポストモダニズムが土台となっています。更に、アジアに戻ってから仕事を通じて才能溢れる素晴らしい人びとと知り合って、大いに刺激を受けてきました。ホテルやレストランをオペレーションする方がたからは、どうやったらうまくレストランが機能するか、そういう現実的な視点も学びました。これからも継続的に、いまやっている分野で成長していきたいですね。

――ご自分の作品以外で世界で一番お好きなホテルは?

東京のパーク ハイアットですね。世界初と言っていい、ハイエンドのモダンなデザインホテルとしては時を越えた存在です。もう20年経つというのにその魅力は色褪せません。もう引退されましたが、ジョン・モーフォードの傑作です。後は、イタリアのソレントにあるパルコ・デイ・プリンチピも好きです。1960年代にジオ・ポンティが造りました。デザインホテルとしては初めての世代に属しますが、家具も景色もタイルも、漆喰の仕上がりも素晴らしく、驚嘆しました。

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André Fu|アンドレ・フー
香港出身。14 歳で英国にわたり、2000年にケンブリッジ大学を卒業。 同年デザインオフィスAFSOを設立、2004年に拠点を香港に移す。アジアのテイストを絶妙に織り込み、空間や照明、インテリア素材など細部にまでこだわった建築やインテリアデザインを得意とし、ホテルやレストランなど国際的なプロジェクトを多数手がける。

フォーシーズンズホテル丸の内 東京
Tel. 03-5222-7222(ホテル代表)
http://motiftokyo.com

           
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